PROJECT STORY
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STORY 02
公共の水インフラと言えば上水道や下水道が一般的だが、下水道未整備地区にて各家庭や集合住宅、地域で設置している浄化槽やトイレの汚水を処理する「し尿処理施設」が日本全国に多数存在する。この物語では事業費72億円のし尿処理施設の全面更新・運営事業の受注までの軌跡を初めてメインで担当した若手営業マンの視点から描く。
T.U
資源化営業部/2013年入社
PROJECT
STORY
はじまりは2015年。若手営業担当「U」の、入社3年目の冬だった。
当時は先輩のサポート役が多かったが、藤枝市にある志太広域事務組合のし尿処理施設の全面更新事業において、ついに本社営業の主担当に任命。志太広域事務組合とは、当社のフィールドエンジニアや拠点営業担当者などが真摯に向き合い続けてきた。自身の担当前から数十年かけて信頼関係を構築しつないできたバトンであり、よりいっそう身が引き締まる想いがあった。
主担当としてのミッションは設計、オペレーションなどの各部よりプロジェクトメンバーを招集し、概要や計画の想定スケジュール、案件の重要性を理解してもらうことから始まる。メンバーの多くは経験豊富で柔軟な発想を持ち、最適解を導き出せる優秀な担当者が集まった。また、現場のフィールドエンジニアの協力を得て、稼働中の施設の運用面における課題を整理。提案に表現できるものから、表現できないものの、これまでに蓄積されたノウハウから想像された細かなら工夫までを整理したうえで、更新計画に盛り込んでいった。設計担当は、普段から現場とコミュニケーションを取り全国の水インフラを支えるプロ集団である。営業の指示以外にも普段から担当者自身が考えることで、必要な情報の整理・検証を進めた要素を余さず反映。計画の基礎が着実に積み上げられる様は頼もしく、「U」は自信を持って顧客への提案営業活動に臨んだ。
しかし、課題は尽きない。そもそも志太広域事務組合から正式に公告されるまで、詳細な要求条件はわからない。まず、建設予定の敷地は決して余裕のある大きさではなく、設備の配置検討において難航が予想された。また、住民の施設への関心が高いため地元貢献として様々な提案を検討したが、顧客に受け入れられ評価されるかなどの課題も挙げられた。
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案件が大きく動き出したのは、募集が開始された2017年。入札の公告後であった。
公共施設の案件は、公告により広く提案希望の事業者を募集する。今回は設計・施工・運営のすべてを行うDBO方式。運営条件は特別目的会社(SPC)の設立だ。まさに、当社グループが長年提供したサービスの経験とノウハウを集結する必要がある。
入札は、設計・建設の配置計画、処理性能、工事工程、事業運営の安定性や地域経済への貢献など、多角的視点から提案を評価。要求事項に対し、また、書類の作成に当たっては社内審査・協議、協力会社との協議や金額の積算・精査など非常に多くのタスクがあり、それらを限られた時間で対応する必要がある。
その中で営業担当の「U」が苦労したのは、契約条件のチェックと回答の引き出しだった。公告時に提示された膨大な契約書案を読み込み、経験者の助力を得てポイントを確認、法務部門とも交渉・確認事項を整理。質問書の限られたやりとりで適切な回答を引き出すため、顧客にしっかり伝わる質問の文言を精査・提出し、適切な回答をいただけた。
また、原価の最適化にも尽力。目標原価に収めるため、関係部門へ原価内容の精査協力や必要に応じて協力会社へ交渉に出向いた。困難な交渉だったが、パートナー関係の構築過程で得た信頼関係が功を奏し、協力をこぎつけた。
提案書類の提出後は、プレゼンテーションの準備・本番、そして審査委員会のヒアリングを受け、開札日を待つのみ。
開札日、「U」は上司と会場へ向かった。代表して会場に入室した上司は、控室へ戻りガッツポーズ。その姿を見た瞬間、最優秀提案者に選定されたことを理解したのだった。
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こうして、し尿処理施設は完成。設計・建設工事期間を経て「日本一の環境行動都市」を目指す藤枝市のシンボル拠点として、新しく生まれ変わった。従来のし尿処理の役割に加え、排水から資源(リン)を回収し肥料として地域で循環活用される。また、見学を通じた学習環境と「体験型パノラマシアター」や「コミュニティスペース」を完備した管理棟は、開かれた市民の憩いの場としての側面も併せ持ち、災害に強く、地球に新しい価値を創造する施設となった。現在においても、地域とのつながりを最も大切にしている。施設周辺の清掃活動の実施や、女子プロバスケットボールチームである「東京羽田ヴィッキーズ」協力のもと近隣の小中学生にバスケットボール教室を開催し、スポーツを通した地域貢献活動を続けている。
「U」はプロジェクトについて振り返り、こう語る。「これだけの経験を一度に積める案件は限られているため、自身の大きな財産になりました。案件を経験して『自身の軸ができた』と感じています。建設中は、何もない土地に一からヒトの力で新しい施設が出来上がっていく様に感動しました。また、施設は運営も開始しており、安定した稼働がこれからも地域の衛生環境を守っていくことに貢献するでしょうし、それはまさに水ingグループの存在意義を示しているものと感じています。完成した施設は新幹線からも確実に見えるため、機会があれば必ず見るようになりました。このプロジェクトで得た経験は、仕事をしていく上での私の密かなモチベーションになっています。」